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April 1641999

 都わすれ去就の鍵は妻子らに

                           水口千杖

の頭自然文化園に、注意しないと見のがしてしまいそうな小さな野草園があって、オダマキの花の横に、毎春ミヤコワスレが可憐に咲く。花色は、紫ないしは白。元来は、山地に自生する地味な野菊の仲間(ミヤマヨメナ)であったが、昭和に入ってから栽培されはじめ、花屋にも出まわるようになったという。案外と歴史の浅い花であるが、ネーミングが秀逸だ。したがって「此処にして都忘れとはかなし」(藤岡筑邨)というように、花そのものの印象よりも名前に引きずられた発想の句が多い。掲句も同様だ。が、この場合はもっと切実。おそらく作者は、意にそまない仕事に疲れているのだろう。いっそのこと遠くの地に転職でもしたいと考えているのだが、妻子の動揺を思うと、なかなか踏み切れない。春は転身の季節だから、毎年、この花が咲くころにそのことを思う。しかし、結局は、決心のつかぬままに何年も過ぎてしまった。そしてこの春もまた、庭に「都わすれ」が咲きはじめた。男たちにとっては、すんなりと共感できる哀しい自嘲句だ。なお、歳時記によっては「都忘れ」は秋に分類されている。元種の野菊と解すれば、そうなる。(清水哲男)




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